【改稿版】バーで会っただけなのに

 

せっかくなので

即興小説トレーニンにて、

書いたものに手を加えて投稿したいと思います。

 

sokkyo-shosetsu.com

 

『お題:急な処刑人/制限時間:15分』で書いたやつ(↑)の増量&改訂版です

 

 

◇◇◇

 

 

 やばい。やばい。やばい──

 なにがやばいって、まずこの状況よ……殺されそう。

 もうその時点で訳わかんねえし。どうなっているかなんてこっちが聞きてえ。

 とにかくやばいとしか表現できない。それもやばい。

 

 ほんとくそッ。ただやけ酒をしていただけだっていうのに、なにがなにやらだ。


 後ろを振り返る余裕すらなく、がむしゃらに足を前へ前へと動かす。角を曲がる。

  

「なんで……なんでだよッ!」

  

 募った焦りで本音が吐き出される。

 

 バーで酒を飲んでいたら金髪の美人とお近づきになれた。そこまではいい……がその後だ、問題なのは。

 第一、あの酒場にいる時点でおかしいと思ってはいたんだ。路地裏を奥へ奥へと入っていかないとたどり着けない、という意地悪な場所にあるんだぜ? それも身を隠さずに女一人でいるとか、明らかに怪しい。


 そう感じていたはずなのにな……悲しんでいる姿を放っておけなかった。ただそれだけで話しかけた。たいした話術やスキルを持っているわけでもねえってのによお。

 

 もうダメだと脳が判断したのか、走馬灯らしきものが見える。

 

 大それた能力や知力があるわけでもねえ──けど、まだ死にたくねえんだ!! 

 

 必死に頭を振り、頬を流れる水分を今までの思い出とともに振り払う。
 なんとか物陰に避難したが、相手との距離が分からない。

 ……ここに入るのを見られたか? 
 ……ここにいていいのか? 
 ……それとも違う道に移動すべきか? 

 

 思考が徐々にネガティブな渦へと呑まれていく。どんなに己を奮い立たせようと、絶対的な恐怖には抗えない。

 経験の差は歴然。体力も残り少ない。まさに満身創痍。

 

 どう転んでも確実に死ぬだろうな。十中八九、ここでお陀仏だ。

 ならせめて……心だけは負けてなるものかよ。 

 

「まずは落ち着いて深呼吸だ。そして──」

  

 一矢報いてやる。あのクールでキレイな面を動かしてやらあ!! 

 冷静にを心がけ、自分を落ち着かせようとした瞬間。

  

「そして?」
「う──ッ!?」

  

 背後からの蹴り。直撃し、無様にも顔面から地面に倒れる。

 すぐさま逃げるべく、立ち上がろうとして、

  

「あ、がぁぁぁぁ────ッ!!」

  

 両足がなくなっていた。

 いつ? どうして? どうやって? ──などと考えるまでもなく、激痛がする。死ぬほど痛い。死んだほうがマシなくらい痛い。けど死にたくねえ。

 

 これでは立つどころか逃げることすら叶わない。完全に追い詰められた。
 どのみち、追いつかれて呆気なく終わる未来だったはず。反撃らしい反撃もできずに、人知れず死んでいくんだろうよ。しかもそれに反論できずに納得しているのが自分なわけだ。どうしようもねえ。

 

 でもよ……もう少しあがきたかった。

 女の表情を変えるくらいはしてやりたかった……。

  

「……さようなら」

  

 金を稼ぐ方法がなく、違法と知りつつもギャングや闇組織に入った。

 もちろん武力や知力が飛び抜けていれば、もっと旨いポジションにつけただろうな。それこそこの女みたいな別嬪さん達に囲まれたり。楽して金を得られたり。自由を謳歌できたり……。

 

 でも、才能らしい才能なんて持っていなかった。せいぜい、気配を消すのが上手いくらいだ。影が薄いだけとも言う。

 結果、使い捨てにできる情報屋の完成だ。成果が悪く、もうそろそろ切られるだろうとは覚悟していたが……実にあっけねえなあ。

 

 もうすぐ金が底をつくってのに、毎日毎日飽きもせずバーで飲む。今後のことを漠然と考え、なんの意義もない時間を過ごしていた。

 そんな時に現れたのが、この女だ。

 

 一発で意識が持っていかれたわ。

 ピシッとしたスーツを身にまとい、他の客の話を強引に断ち切った。バーという場所でスーツは浮くはずなのに、逆に自分たちこそが場違いだと勘違いしてしまうほど彼女は圧倒的な美しさを誇っていた。

 

 あいつは只者じゃねえ。誰もが直感したはずだが……ほとんどの客は気付いていない。

 彼女は──殺し屋だ。それもかなり腕のいい部類。この街では敵なしだろう。

 所属していた組織からは殺せと命令が出ていた。死んでも会いたくない理由には十分すぎた。

 

 変に距離を取るのも危ないから関わらないでおこう──最初の決意は、彼女の涙で霧散した。カウンターで静かに泣いていたのだ。

 気付いたときには、彼女の隣に移動し、酒を一杯奢っていた。

 なぜかその時どちらも声を発していなかった。理由は定かではないがよく覚えている。

 

 その日以降、約束などしていないのに毎日隣で飲む仲になった。

 もちろん偽名だが自己紹介を交わし、無論嘘八百だが仕事や家族のことを打ち明け、当然真実だが趣味や好みを語り合った。

 

 会話中の彼女は一切表情を変えなかったが、相槌や反応は返してくれたので冷たい人間というわけではない。勝手ながらそう思っていた。

 いつか笑顔を拝んでみてえ、とも。

 

 そして今日も変わらず、近づけそうで近づけない彼女と密会して……という淡くて、おこがましい期待はぶち壊された。

 

 ──暗殺対象になった。

 

 あくまで組織の人間だが、組織に彼女の情報は一切流していない。どころか、自分の痕跡を隠している。このバーに来ていることも絶対に漏れていないはずだ。

 

 仮に、という仮定は死を前にして意味を成さない。が……考えずにはいられねえ。

 もし、偽装工作が完璧で組織に怪しまれてさえいなかったとしたら? 彼女がこの街にいることを組織は知らないとしたら? 

 

 思考が思い出達に塗り潰されていくのを感じる。たった二週間だが、確かに痛む。

 足の痛みなどではない。そんな些末なものはとうに感じなくなった。

 乾き切った笑みを彼女に向ける。

 

「そういう、ことか……」

「……」


 腰まで流れるキレイな金髪に、何度心がときめいたか。
 女性らしさがあふれるその体に、何度顔をそらしたか。
 無表情でもちょっとした仕草や行動に、何度もっと見せてほしいと懇願したか。

 話し方や話を振る上手さに、何度挙動不審にならずにすんだか。

 

 それもこれも全て嘘だったかと思うと……

  

「やってられねえな……」

  

 情けない最後の言葉は、彼女の一閃で亡き者に。

 もうどの痛みを感じているかもあやふやになり、意識も闇へと吸い寄せられる。

 着々と死が向かいに来ている。これが死か。心細くて、悲しいものなんだな。

 

 どうせならさ……

 

「……す…………」

 

 無理か。ほんと最期の最後までなさけねえ。

 笑顔は拝めなかったか……残念だ。

 

「……ごめんね」 

 

 目を閉ざす直前──最期に届いたのは、真摯な謝罪と泣き顔だった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

いや結局なんなの?って感じですが、自分でも分かりません。

 

よーいスタート!お題は『急な処刑人』か…むっず!!てな感じで15分頑張って書いたやつをそれなりに詳しく膨らませただけなので。

 

あくまで練習です。

主人公が可哀想すぎて救ってあげたいですが、続編とか過去編とかは書きませんw